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『…次は葉桜、葉桜でございます…』
車内に停車駅を告げるアナウンスが流れ、電車は徐々に速度をゆるめながら駅構内に入り、がくんと揺れて停車した。
葉桜駅に次の面接場所となる喫茶店がある。
俺は葉桜駅で降りる乗客何人かに混じって電車を降りた。
そのままホームの途中で設置された階段から改札の方へと下りる。
そして来た時に通した切符を再び改札に通す。
(走ればギリギリ面接に間に合うな)
俺は腕時計を確認しながら胸中に呟き、駆けようとしたその時だった。
予想外の出来事が起こった。
「きゃっ…!」
腕時計からすぐに目を離さなかったせいで、俺はすぐ前にいた人にぶつかってしまったのである。
この悲鳴は女性のものだ。
悲鳴と同時に俺は尻餅をついてしまい、彼女の籠バッグと俺の鞄の中身が辺りにはげしく散らばった。
「ってて…」
尻餅をつくなんて無様だ。
やっぱり少しずつでも運動をしないと…とバカな事を考えつつ顔をあげると、やはり悲鳴の主は若い女性だった。
男だったら気持ち悪いが。
女性は長い亜麻色の髪を腰まで垂らし、凛として少し気の強そうな印象を受けるけど、どこか憂いを帯びた瞳を宿していた。
今思えば、彼女の瞳がすごく印象的だった。
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