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第一章:一人だけ知らない
「お嬢様……」
目覚めると、薬草じみた匂いが鼻につんと来ると同時に真っ先に視野に現れたのは端正な、彫り深い目鼻立ちと灰色の混ざった薄茶の瞳からして白人の血が明らかなお爺さんの顔だった。
「二のお嬢様が目を覚まされました!」
豪奢な天蓋付きのベッドの傍でワッと沸き立つ声が上がる。
「タオホア!」
顔も声も私のお母さんには違いないが、昔風の束髪にして小豆色の綸子の旗袍を纏った人が涙ながらに手を握ってきた。
「本当に良かった」
お父さんも短髪の髪型こそそのままだけど、肥った体に食い込みそうな黒地の長袍を着ている。
「アーメイ、三日も意識が無かったのよ」
北海道の医大に通っているはずの従姉の梅香ちゃんも木綿の紅梅色の旗袍に白い前掛けをしている。
「二の姐様、今日はお誕生日ですわ」
こちらは山形に住んでいる従妹の櫻子ちゃんに違いないが、中学のバスケ部に入ってショートに切り揃えたはずの髪をお団子頭にして桜色の旗袍を着ている。
「雛人形を飾ってお祈りした甲斐がありました」
先程のお爺さんが指し示す先には見慣れた緋色の絨緞を敷いた段があり、私の知る雛人形とは遠目にも似ていて少し異なる人形たちが並べられていた。
「ジェンが遠くまで薬草を買いに行って手に入れてくれたのよ」
お爺さんを示して語る梅香ちゃんの言葉に両親が微笑んで首肯く。
「本当にありがとう」
どうやら一人だけ見知らぬこのお爺さんはジェンというらしい。
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