第二章:宴席の面々

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「僕が一人一人の名前を極力呼ぶようにするから、君は聞いて思い出して」  廊下を歩きながら永南が私に耳打ちする。 「分かりました」  一足遅れて匂ってきた橘の香りの中で頭を頷かせると、きっちりお団子にして結った後頭部に思い出したように微かな引っ張られる痛みを覚えた。  元の世界での私は不器用で上手く編めないせいもあるが、そもそも両サイドで髪を分けて三つ編みにすると引っ張られて痛いので基本は一つに束ねるのでなければ髪を下ろしている。  この世界ではそんな髪型の自由すら無いのだ。 「(ウー)さん、お疲れ様」  私の思いをよそに許婚の彼は廊下をやってきた中年の女中に声を掛ける。  先ほど私の落として割った杯の片付けをした人だ。 「ありがとうございます」  相手は自分の子供でもおかしくない私たちに向かって恭しく微笑んで会釈しながら去っていく。  あの人は“ウーさん”だ。今度は何かしてもらったらちゃんとお礼を言おう。  この世界ではたまたま私がお嬢様であの人が使用人というだけで、同じ人間なのだから。  もしかすると、元の世界ではあの人だってあるいはうちよりお金持ちの家の奥様やキャリア・ウーマンだったりするのかもしれないし。  そんなことを思う内にも視野がパッと明るくなって、花の香りを交えつつまだ底に冷えたものを含んだ風が絹の旗袍を着た体に吹き付ける。
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