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「金の伯母様、こんにちは」
二、三歩進んだ所で隣の永南が呼び掛けた。
桃の花の下に立っていた真っ白な束髪に同じく真っ白なチョゴリ、黒地のチマを着けたお婆さんが振り向いた。
「あら、賢ちゃん」
お婆さんは皺多い顔の皺をいっそう深くして温かな声で応じる。
永南の「伯母様」というより「お祖母様」や「大伯母様」にこそふさわしい年配に思えるが、正確な続柄は分からない。
白と黒の質素な身形だが、却って周囲の豪奢な中華服姿より品良く見える老婦人の笑顔がこちらに向けられる。
「李のお嬢さんのご病気が良くなって良かったわ」
そうだ、この世界の私の姓は「李」だった。まだ自分ではない別の誰かの名に思える。
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