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「ソンフイそっくりね」
チマ・チョゴリの老婦人はお団子頭に旗袍を纏った私に向かって微笑んだまま細めた目の奥を微かに潤ませる。
「孫のお嬢さんたちの中でも貴女が一番似ている」
「そうですか」
元の世界では父方のお祖母ちゃんは「松恵」といい、祖母を知る人からは三人の孫娘の中でも私が一番似ていると良く言われた。
――中学生の頃、同じ組に金田さんて在日朝鮮人の女の子がいて仲が良かったんだけど、途中で向こうが転校しちゃって、今はどうしてるのか分からない。
いつか寂しく笑って語っていたお祖母ちゃんの顔が目の前にいる韓服の老婦人と重なって蘇る。
音もない風が吹いてきて、梅のふんわりした芳香に湿った土の匂いが入り交じって通り過ぎた。
「きっと、貴女のお祖母さんも『まだ来ちゃいけない』って冥府から帰してくれたのよ」
元の世界で山形の櫻子ちゃん一家と同居していたお祖母ちゃんは去年の暮れに亡くなったが、こちらの世界でももう故人なのだ。
「そうですね」
なぜ、なぜそんな所だけは一緒なんだ。
ザワザワと風が音を立てて、目の前に広がる花霞が熱く滲む。
「ごめんなさいね」
皺だらけの温かな手が私の旗袍の肩を撫でる。
「病み上がりの人に辛いことを思い出させちゃって」
この金の伯母様は顔こそ似ていないけれど、真っ白なチョゴリの袖からは桜餅じみた、元の世界のお祖母ちゃんに似た匂いがする。
「玲玉はまだ病気から意識を取り戻したばかりで記憶も不確かなんです」
隣の永南が静かに言い添えた。
私が日本人の山下桃花でコロナウィルスの流行る世界で交通事故に遭ったという記憶は本当に確かなのだろうか。
少なくともこの世界でそれを口にしても病気による錯乱としか扱われない。
「それでは、お大事にね」
老婦人は飽くまで穏やかに告げると元の広間の方に戻っていく。
後ろ姿になると真っ白なチョゴリの背中から痩せて骨ばった体つきが目立った。
あの人も長くはないかもしれない。そんな思いが一瞬過る。
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