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「せっかくのお姐さんのお祝いなのにお前の踊り、まるでなってないじゃないか」
黒地に朱雀の中華服を着た弟の方が小柄なかぼそい体に桜色の旗袍を纏った私の従妹に告げる。
良く似た兄弟だがこちらは切れ長い目のやや吊り上がった、キッとした勝ち気そうな面差しだ。
ああ、この顔には見覚えがある。この世界に来て初めて対面した相手だが、奇妙な既視感があった。
多分、櫻子ちゃんがバレエを習っていた頃、山形のおうちで見せてくれた写真の中で一緒に写っていたお教室の友達の一人だ。
そもそも男の子は少ない上にこの子はどの写真でもどこか取り澄ました、しかし、我の強そうな表情で映っていたので覚えている。
「だから不束と言ったでしょ」
従妹は大きな瞳を微かに潤ませると蚊の鳴くような声で答えた。
元の世界でも櫻子ちゃんは人見知りするので同い年の子たちの中に入ると酷く大人しくなるのだが、それはこちらの世界でも変わらないようだ。
「足を動かす時も手をなおざりにしちゃダメだし、手を動かす時も足をお留守にしちゃみっともない」
話しながら手本を見せるように自ら長い手足を繰って踊り始める。
これは見事だ。
ダンスなど体育の授業でしかやったことのない私の目にもこの黒服の少年の動きが一般には決して下手ではない従妹と比べても段違いに洗練されていると良く分かる。
「あれは春の訪れを喜ぶ曲なんだから表情も晴れやかに」
ふっと周囲の花霞を見上げて微笑むと、まだ十三、四歳の男の子なのにその表情には色香すら感じられた。
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