第四章:三姉妹を巡って

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「お祝いの席の踊りなんだ。品評するもんじゃない」  藍色の地に鶴を刺繍した衣装の兄が変声期特有の割れた声で言い放つ。  弟より目付きの柔和なその顔にもやはり見覚えがある。  ――弟の子の方が上手くて発表会でもプリンシパルになるけど、お兄ちゃんの方が優しいから。  バレエ教室の発表会で撮った集合写真の中央で勝ち気そうに微笑むプリンシパルの弟に対して、端の方で小さな櫻子ちゃんを守るように隣に写っていた「お兄ちゃん」だ。  ふと従妹を振り返って桜色の旗袍に対して靴は藍色の絹地に鶴の飛び交う模様であったことに改めて気付く。  ああ、そうか。  元の世界でも何となくそう感じたが、この世界でも従妹はこの知り合いの兄弟の兄が好きで、それで彼と同じ色柄の服飾を着けているのだ。  服だと露骨過ぎるから裾に隠れがちな靴に自分の想いを現したのだろう。 「俺はそういう誤魔化しは嫌いだ」  踊りの手足を止めた黒服の弟はキッと兄と櫻霞の二人を振り向くと睨み付けるようにして言い切った。  踊っている時は不思議な神がかったような雰囲気だったのに、素に戻ると、年相応に幼いばかりか、何だかきつい感じの子だ。  ずっと踊っていればいいのにと他人事ながら思う。 「私は自分が下手だって知ってますから」  櫻霞は黒服の弟に対しては目を伏せてしか話さないようだ。
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