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「厳のおば様、お久し振りです」
隣で如才なく告げる永南に倣うようにして私も頭を下げる。
そうすると、お団子に結った髪の分け目にピッと吊られるような痛みがまた思い出したように走った。
早く解きたいが、この世界で髪の毛を降ろすことが出来るのは夜寝る時だけだ。
そう思うと、春の麗らかな陽射しが緩慢な地獄に思えた。
「ご快気とお誕生日おめでとう」
厳のおば様(と許婚が呼んだのだから私がそう呼んでも良いはずだ)は紅を差した唇を品良く微笑ませると澄んだ声で告げた。
珈琲色の旗袍の肩越しに紅梅の花びらがどこかきつい芳香を漂わせながらちらちらと舞い落ちていくのが認められた。
この人も下の息子と同じように踊りを良くしていたのだろうか。
単純に細いというより引き締まった肩や腕の辺りからそんな感じがする。
「ありがとうございます」
このやり取りは今日で何度目だろうとおもいつつ、お団子頭を下げる。
そもそも私は本当に良くなったのだろうか。李家の二女の桃花ではなく二十一世紀の横浜に住む日本人女子高生の山下桃花だとしか思えないのに。
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