第四章:三姉妹を巡って

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「雛祭りに生まれたからこんな可愛らしいお嬢さんなのね」  これは元の世界でも繰り返し言われたことだ。 「お陰で皆さんに誕生日を覚えていただけます」  三月三日生まれで「桃花」と来れば名前自体が誕生日を示す記号のようなものだ。 「女の子の多いお宅は華やかで羨ましいわ」  普通にしているとまだそこまででもないが、笑うと目尻に深く刻まれる皺でもう若くはない人だと分かる。  四十五歳になる私のお母さんよりは多少若いから、四十前後だろうか。  珈琲旗袍のマダムは尖った顎を微かに押し出す風にして付け加える。 「うちは息子しかいないから」  こんな風に卑下するのは、実際のところ、この世界でも男の子の方が女の子より格段に「家を継ぐ者」「社会的な実務を担う人間」として尊重されているからだ。  というより、こちらの世界では上の学校に進めるのも地位の高い職に就くのも男性だけだ。  私の絵も、梅香姐様の琴も、櫻霞の踊りも、飽くまで「良家の娘の嗜み」であって、全うな芸術としての評価の対象にはもちろん、生計を立てる術にもならない。
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