7人が本棚に入れています
本棚に追加
「黄の旦那様、ご迷惑をおかけしました」
恭しいが温かな声が届いた。
長身のジェンは灰色の小さな頭で一礼すると、客人に似ていてもっと品の良い黄金色の服を差し出す。
「こちらでよろしければ、お召し物をお取り替え下さい」
黄金中華服の男は実際には僅かにしか濡れていない袖口を拭く手を止めると、肥って弛んだ頬をニヤリと綻ばせた。
「それは助かった」
中年男は拭いたばかりの布巾を地面に落ちた酒器と杯を拾い集めている若い下男の横っ面に叩き付けるようにして放り投げる。
その煽りでふわりと酒の匂いがこちらにまで漂ってきた。
「酒臭い濡れ鼠では敵わんからな」
何だかこのおじさん、見せしめにこの若い下男を屈辱的に扱っているみたい。
周囲の強張る空気を背中に感じながら、さすがに私もそう思わざるを得ない。
ジェンは恭しい面持ちのまま、薄茶色の瞳だけはどこか寂しく俯いた若い下男を見守っている。
この若い男の人の方は客たちはもちろん執事のジェンと比べても質素な身形だから、恐らくは使用人の中でも序列は低いのだろう。
象牙色の肌をした中高な横顔は、しかし、下っ端の召し使いにしては上品な、労働そのものに慣れていない雰囲気があった。
最初のコメントを投稿しよう!