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「お召し替えの部屋にご案内致します」
いつの間にか近くに来ていた年配の女中がもの柔らかな声で告げると、ジェンから替えの着物を受け取った。
この人は確か呉さんだった。胸の内で復唱する。
私のお母さんとさして年の変わらぬ女中は、品の良い笑顔だが、しかし、どこか冷たく虚ろな眼差しをけばけばしい黄金色の服を纏った客に向けている。
「じゃ、頼むよ、おばちゃん」
黄の旦那様は二重にした顎を振るわせて笑うと、先ほど梅香姐様に対して語り掛けたよりはずっとぞんざいだが、似たような纏い付く声を掛けた。
自分だってみっともなく肥ったオジサンのくせによく呉さんを「おばちゃん」呼ばわり出来る。
元いた世界でもこんな勘違い男はちょくちょく見掛けたが、この世界だと身分の高い男性は「お前だってオッサンだろ」と正面から指摘される機会も少ないのだろう。
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