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「後は私が片付けるから、台所の手伝いへ」
密やかに語る声に振り向くと、ジェンが屈んで若い下男の指に小さな布を巻いて結んでやる所だった。
どうやら破片を拾い集める内に後者が指先を切ったらしい。
ジェンの年老いてはいるがケアの行き届いた手と比べても、若い下男のそれは遠目にも荒れてがさついている。
この人、梅香姐様が用向きを言い付けるのを何回か目にしただけで名前もまだ覚えていない(というか知らない)けれど、いつからうちで働いているんだろう?
年は姐様と同じくらいだが、子供の頃からこうして働いているならもっと労働慣れしていても良さそうだし、かといって何年働いても駄目なほどの障害を持っているようにも見えないし……。
「分かりました」
私の思いをよそに若い下男はアジア系としては中高な、しかし、白人の血の入ったジェンと向かい合うといかにも扁平に見える横顔を頷かせて立ち上がった。
ふとこちらの眼差しに気付いた風に若い下男が目を向ける。
私もそうだが、隣の永南からも微かに固まる気配がした。
「見苦しいところをお見せして申し訳ありません」
元いた世界なら大学生くらいの下男は、自分より少し年下の私たちに深々と黒髪の頭を下げる。
やめて。私はそんな偉い人間じゃない。
豪華な桃色の絹を纏った胸の奥が締め付けられる。
自分がこの人にとってはあの黄の旦那様と同じ、理不尽に頭を下げさせる側の人間なのだということが苦しくなる。
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