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「失礼致します」
視線を避けるようにして下男は屋敷に戻っていく。
一応は私も頭を下げられる側の人間ならば、「お嬢様」ならば、この人や呉さんを守ることも出来たのではないか。
いや、守ろうと動くべきだったのではないか。
ジェンだって若い部下に自分の出来る形で助け舟を出していたのだから。
「李家の二のお嬢様」としてどう振る舞うのがこの世界では正解なのかは分からないが、少なくともただ傍観しているだけの自分が不甲斐ないことだけは良く分かる。
「貴生」
中庭に続く入り口からすらりとした紅色の旗袍姿が現れた。
どうやらあの下男の彼は“グイション”という名らしい。
ようやく把握すると同時に、梅香姐様の何かを諦めたような眼差しと声に息詰まる感じを覚える。
「台所の手伝いに行きます」
下男は精一杯何でもない風に笑って告げると、入り口の向こうに消える。
「玲玉」
橘の香りと共に肩に手を置かれるのを感じた。
「向こうで話そう」
振り向くと、許婚の肩越しに、壊れた器の欠片を回収して戻っていくジェンの優しく微笑む顔が見えた。
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