第一章:一人だけ知らない

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***** 「これ、足に合わないよ」  桃色の旗袍に合わせて作られた風な、朱鷺色の絹地に白や赤の花々を刺繍した、妙に先尖った形の布靴。  履いた瞬間、足の指が両脇から締め付けられたようだし、立ち上がれば、微妙に高く作られた踵の辺りが落ち着かない。 「せっかく誕生祝いと雛祭りを兼ねて作ったんじゃないの」  嘆息するお母さんの足許を見やると、やはり臙脂(えんじ)色の絹地に朱雀を刺繍した、私よりもっときつそうで踵ももう少し高い靴を履いていた。 「今の若い人は恵まれているのに我慢が足りないんだから」  お母さん、こんな靴履いてたら外反母趾になっちゃうよ?  この世界に「外反母趾」に該当する言葉があるかは知らないが、それは該当する症状自体が無いことと同義ではない。 「お嬢様、お綺麗ですよ」  ジェンが三面鏡を持ってきて開いた。  そこにはお団子頭に桃花を象った簪を挿し、桃色の旗袍を纏った、しかし、顔形は元の世界と全く同じ私が三つの角度から映っていた。 「ご病気になる前とお変わりありません」  それならどうして貴方もそんな悲しい笑い方をするの?  曇りかけた顔を映し出す三面鏡はさっと閉じられた。
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