第二章:宴席の面々

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 つと、隣から橘の香りが届いた。 「あの屏風の、桃の花の枝に四十雀(しじゅうから)の止まっている辺りが僕は特に好きだ」  確かに中央の屏風には優しい桃色の花を付けた枝に白黒の模様も鮮やかな鳥が一羽横向きに止まっている様子が描かれている。 「確かに桃の花に白黒の鳥の姿が引き立って見えますね」  琴を奏でる梅香姐様が語り合う私たちの姿を目にして安堵した風に微笑むのがこちらにも見て取れた。 「君が今まで描いた中でも一番良いくらいだ」  張永南は切れ上がった目を細める。 「え?」  大きくはない声なのに妙に飛び出て響いた。 「(うめ)(もも)(さくら)の花咲くあの屏風を君は三ヶ月も掛けて描いたじゃないか」  相手は一度細めた目をまた開いてこちらをまじまじと眺める。 「絵が好きで良く描いていた君なのに」  絵は嫌いじゃないし、学校の美術の成績も悪くはないけれど、あんな古風な屏風の絵なんか描いたこともないし、描き方も知らない。 「そうですか」  琴を奏でる大姐様と舞い踊る三妹のこちらに向ける眼差しが微かに固まるのが辛い。 「二のお嬢様」  優しく温かな声が届いた。  またジェンが来てくれたようだ。  安堵と共に振り向く。
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