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ガチャリ
僕は屋上に繋がるドアを開けて、黄昏時の空が広がる屋上に足を踏み入れた。冬独特の刺すような空気を、露出している僕の顔が痛みとして感じる。
「今日は夕焼けが綺麗だから、もしかしたら見られるかな」
空を彩っていた赤色が、太陽が地平線に沈み込んだことにより、深い青色に変わる。
ブルーモーメントだ。
市民薄明と航海薄明の間のわずかな時間に見られる空の魔法。
そして、それは彼女が大好きだった自然の空の魔法でもある。
だからきっと、彼女に逢える気がした。彼女もここにいると思った。
黄昏時は暗くなり顔の識別が出来なくなり、「誰ぞ彼」と尋ねたことから来た言葉だと、彼女から教わったことを思い出す。
彼女の長い髪が風に靡いている。今日もまた、いつもの位置でいつものように空を眺めている彼女のシルエットが見える。
駆け寄ってあの時の言葉の意味を訊きたいけれど、罪悪感から僕は彼女に声を掛けられない。
それに、もうお別れを伝えてしまっているし……
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