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「ねえねえ、私、彼氏できちゃった」
夜勤明けの彼女は、僕が詰めているMRIの操作室に入ってくるなりそう告げた。
夜勤明けで疲れている表情など見せずに、長い髪を手で梳きながら、眩いばかりの笑顔を振りまいている。
窓もなく、狭くて薄暗い操作室が少し明るくなったように感じる。
「へー、そうなんだ。どんな人」
心の奥から湧き上がる動揺を悟られないように、至極普通を演じながらも気になってしょうがない疑問をぶつけてみる。
「弘美の紹介。医療業界じゃなくて、普通のサラリーマン」
幸せな自分をたくさん知って欲しいという様なオーラが溢れている。
「仮眠取ったら、デートするんだ〜」
「ふ〜ん」
先ほど撮ったMRIの画像を編集しながら軽く応じる。
「どこ行くと思う。今日はね、夕方からディズニー行くんだ、いいでしょ〜」
「俺、ディズニーの楽しみ方知らないから、興味ないや」
「そんなんだから、兄ちゃん、ダメなんだよね」
兄ちゃん、と呼ばれているが本当の兄弟ではない。なんなら、彼女の方が僕より一つ歳上だったりする。
この病院に勤めてから、何となくいつの間にか仲良くなった僕たち三人。二九歳の放射線技師の僕、三〇歳の看護師の彼女、そして二六歳の作業療法士の女の子。
僕たちは、僕が四〇歳になった時にみんなが独身だったら一緒に住もうと約束をしていた。三人ともに褒められたい、という思いがあり、チーム自画自賛と称して褒め合っている関係が心地よかった。兄役の僕と二人の妹といった感じで、お互いの老後を支え合おうと真剣に話をしていたくらいの仲だ。
その彼女が彼氏ができたと伝えてきた。
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