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3ヶ月ぶりに会ったこの同い年の友人はいつでも眩しいほどに整った顔立ちをしている。
大学の時のバイト先が一緒だった、ただそれだけの出逢いが今や唯一の何でも話せる親友。
29にもなると、だいたい学生時代の友人なんかは仕事やら家庭やらで散り散りになって、年賀状のやりとりくらいの付き合いしかなくなってしまう。
そんな中で、変わらずこうして気軽にふらりと誘い誘われることが出来る彼は貴重な存在だった。
「どんくらい付き合ってたんだっけ?」
「3年と5ヶ月…。」
「あれ?こないだ会った時プロポーズするって言ってたよね?」
「した。…んで次の日に浮気発覚。」
「うわぁ、嘘みたい。」
「嘘ならどんだけ良かったか、僕だって何回も祈ったって…。」
3ヶ月やそこらなんかじゃ癒えない傷がまた僕の目の前を曇らせていった。
「え?指輪とかは?」
「…そこだけはちゃっかり返ってこなかった…。」
「…凄いねその子。」
さすがにその友人―澤村 洸(さわむら こう)も僕に心底気の毒そうな目を向ける。
「もう怖いほんと怖い女って怖い…。」
「で、もちろんそのまま別れたんだよね?」
「別れたよ…。僕がフラレたって形で。」
「え?何その超展開。どんな持論を展開したらそんなことになるの?」
「頼りがいがないだとか、優しすぎるだとか、だからもっと束縛して欲しくて浮気した…?的な…?ことを言ってた気がする。」
「それまた斜め上いく超理論だね。」
「宇宙人と話してるみたいだった…。」
「何が良くてそんな子と結婚まで考えたの?」
「そんな子じゃないって思ってたんだよ…。」
飲み込みきれない諸々を飲み込むみたいに僕はグラスの中身を一気に飲み干し、通りかかった店員さんに何度めかのおかわりの注文をした。
少々お待ちください、と笑う若者の笑顔がとても眩しい。
「まぁでも、雅己(まさみ)くんも年齢で焦ってたとこあったでしょ?」
「それは…まぁ。彼女も同い年だからそうしなきゃな、みたいなとこもあったけど…。」
「彼女もそれわかってて出来心出したら案外うまくいって、それで調子のったのかもね。」
「…浮気相手の男、僕と彼女より7つも年下だったんだよ…。」
「…お気の毒。まぁ、結婚してからされるよりマシだったって思えばいいんじゃない?その人とはそこまでのご縁だったんだよ。」
「…。」
優しく笑う友人の整いまくった顔が、映画のワンシーンみたいに景色(つってもただの居酒屋だけど)に映える。
僕たちが座る席の後ろを通る女の子たちが、彼の方を向きながら通り過ぎていった。
わかる、わかるよ。
男の僕から見ても眩しいもん。
しかも優しいし、僕と同い年とは思えないくらい落ち着いてるし、なんだかよくわからない難しい横文字の会社の経営者だ。
モテないはずがない。
世間が放っておかない。
なのに、とある理由から彼はいまだに独り身で、いくら元バイト仲間のよしみだとしても、こうしてこんなしがない平凡で長年付き合った彼女にも年下の男と浮気された挙げ句フラれるようななんの取り柄もないしょーもないイチ中学校教員のつまらない愚痴を延々と嫌な顔ひとつせずに聞き続けてくれている人格者だ。
しかも綺麗好きで料理上手。
時々洸のマンションに招いてもらったりもするけど、ほんとインテリア雑誌とかに載ってんのかってくらいいつ行ってもお洒落で綺麗な部屋で、会社名と同じくらいよくわからない横文字のすんごい美味しい料理を食べさせてくれる。
「もー…僕、洸と結婚しよっかな…。」
溢すように言った僕に洸は、静かに唇だけで笑うみたいな憎いほどこなれた微笑を見せ、挙げ句艶を含んだ低音ボイスで答えた。
「ごめん。雅己くんはタイプじゃないから。」
「なんか洸にそれ言われたの二回目だわ…。」
そう、初めて洸にそれを言われたのは大学の時だった。
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