第1章

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大学生だった僕が小・中学生向けの塾の講師のバイトを始めた時に一緒に入ってきたのが洸で、その甘いフェイスとセクシー低音ボイスで彼は一気に女子生徒たちや一緒に働く女性陣たちの人気まで年齢問わずかっさらっていった。 なのに、いつも群がる彼女たちの躱し方が絶妙に上手くて、やっぱ本物のイケメンは違うわ、なんて思いながら仲良くしていたら。 「俺、ゲイなんだ。」 ある日突然ぶっ飛んだ告白をかましてきた。 えー…っとそれをわざわざ僕に打ち明けてくるということは、つまり…? え、どうしよどうしよどうしよ、友達で男でしかもこんなイケメンに告白された経験なんてないからなんて答えるの正解!?ってあわあわしながらテンパりすぎた僕が、 「ぼ、僕ドーテイだから期待に応えられるかどうか…!!」 って答えたときの洸の顔。 え、すんごいイケメンもこんなお腹つりそうなくらい笑うんだな、と思いながらボーゼンとする僕に、ひとしきり涙を流して笑いこけた洸の次の一言が、 「ごめん、ほんと悪いけど小田桐(おだぎり)くんはタイプじゃないから…。」 だった。 顔から火どころか炎が上がった。 恥ずかしさでさらにテンパって咄嗟にじゃあ澤村くんはどんな人がタイプなの!?って若干怒り気味に聞いた僕に、洸の笑いの第二波が訪れたのはいうまでもなかった。 「まさかあそこで未経験をカミングアウトされるとはさすがに思わなかった。」 その時のことを思い出したのか、洸の肩がまた微かに揺れ始める。 「いや、だってそんなの、まさか洸みたいなイケメンに突然そんなこと言われるとか思わないじゃん!!」 「うん。そんで普通はね、気持ち悪いとか言われたり引かれたり、そのまま友達無くしたりするんだけどさ。」 「…僕そんなことしないよ。」 「うん。それはもうマイノリティに対する世間の反応だから、って自分なりに諦めつけてきたとこもあるんだけど、…雅己くんの反応は…、初めてだったわ…っ」 ついに堪えるのが無理になったらしい洸はそのまままた遠慮せずに笑い始めた。 いつもは切れ長で涼しげな目元がくしゃり、って下がって子どもみたいな顔で笑う。 「…もう忘れようよ…。」 「ごめん。無理。」 「あぁー、彼女には浮気されてフラレるし、友達には笑われるし、職場では生徒にも『のほほん先生』なんてバカにされるし…。僕なんて…。」 「あー、ごめんごめん。」 整ったその目尻にうっすら溜まった涙を長い指でそっと拭って、洸はやっと笑いの余韻から抜け出してくれる。 「雅己くんは優しい人だよ。俺、あの時涙出るくらい笑ったけど、引かずにいてくれてほんとにほんとに嬉しかったんだ。だからそんな落ち込まないで。はい、これも食べて食べて。」 ダークサイドに沈みかけた僕の機嫌を取るみたいに洸はお皿の上に残っていた僕の好物を進める。 「…。」 溜飲を下げるように僕はそれを黙々と口に運んだ。 別に洸の恋愛対象が男性でもなんでも、友達であることに変わりはない。 自分が出来た人間だなんてまさか思ったりしないが、洸に対する嫌悪感や好奇な気持ちなんかは、洸の告白を聞いた後も、全くといって何もなかった。 だって、洸はいつもいい男だ。 それは断言できる。 「…じゃあ、たまには景気付けに遊んでみる?」 「…遊ぶって何。」 僕を横目に眺めながらグラスを口に含んでいた洸がふと僕を真っ直ぐに見つめながら切り出した。 いくら数年来の友人で慣れてきたとはいえ、やっぱり超絶ド級に整った顔立ちの洸の吸い込まれそうな瞳に見つめられるのはふいにドキっとしてしまう。 人間だもの。 美しいものに見とれるのは本能なのだ。 それはさておき、ちょっと妖艶なくらいの笑みを浮かべた洸が誘ってくる遊びとはこれいかなるものか。 「これ。」 いちいち絵になる所作で操作した洸から渡されたスマホには、真っ黒なバックに『D-club』と綺麗な白い字で描かれただけの画面があった。
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