第1章

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そして、決戦の(?)金曜日。 僕の仕事終わりに合わせて集合は遅めの時間に設定してくれており、僕は準備をして洸からメールで送られてきたとある高級なホテルへと向かっていた。 …なんだか凄いことになってしまったな。 エントランスに入る前に改めてホテルを見上げる。 不安と期待が9対1。 ぶっちぎりの不安しかない。 …まぁ、洸も飲むだけでいいって言ってたし。 どことなく重いような足取りで一歩を踏み出すと、ボーイさんが慣れた手つきでドアをさっ、と開けてくれた。 思わずあ、すみません、と頭を下げて自分の馴れてなさに恥ずかしくなる。 もう、ほんとこんなエグゼクティブクラスなホテルをあっさりと遊び場にしてしまう、洸にただただ脱帽である。 てか僕ちょっと頑張った程度の普段着だけど浮いてないかな大丈夫かな。 洸もこんな僕の何が良くてここに誘ってくれてんだろうと、純粋に聞きたくもなるほど、そこは別世界だった。 「雅己くん。」 だだっ広いロビーに置かれた高級そうなソファにゆったりと腰かけてパソコンと向き合っていた洸が僕に気づいて笑顔を向ける。 もうロビーに飾られた絵か!ってくらいこのホテルに於いてなんっの違和感もない洸は、むしろロビーを彩るインテリアの一部と化していると言っても過言ではなかった。 そう、こういう世界はこういう人種のためにあるのだ。 「洸…。ねー、もう無理だってほんと、僕こんな場所に足を踏み入れる資格も財力も人間性もないって。」 エントランスの光景だけですでに心折られた僕は情けないくらいの声を出して洸に泣きついた。 「どうしたの。」 そんな僕の様子を見て、洸は涼しい顔だがまた笑いを堪えているのであろうことは一目瞭然だった。 「…ここを出る頃には僕は身ぐるみ剥がされてるんじゃなかろうか…。」 「大丈夫だよ。…ちょっと株で臨時収入があったから、今回は全額俺が持つから。」 「いや、そうゆうわけには…。」 いかんのだろうが、いかんせん払えるかどうかもわからないため微妙に語尾が濁る。 泡と消えた指輪代、あれが残された僕の生活を圧迫していることは間違いなかった。 「指輪代だって相当かかったでしょ。」 「どうしてそれを…。」 「雅己くんのことだから、彼女の言われるままにいいやつ買っちゃってそうだし。」 「…うぅ…。」 ぐうの音も出ません。 「今日は誘ったの俺だし、雅己くんを励ます会だから遠慮なく遊んで。お礼はまた雅己くんの行きつけに連れてってくれたらいーから。」 いや僕の行きつけってサラリーマン御用達のゴリゴリ安居酒屋かちょっと汚なめだけどすんごい上手い定食屋ぐらいだよ…。 「…30年ローンになっても返すから。」 「うん、それで雅己くんと最低後30年は繋がっていられるなら、それいいね。」 何なのこの眩しい生物。 ちょっと直視できない。 そんな洸に案内されながら、僕はまさに未知への一歩へと繋がるエレベーターへと乗り込んだのだった。
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