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「酷い、洸、流石に酷すぎる!!」
「ごめんごめん、雅己くん、ほんとにごめん!!…だって身請けって…、遊郭じゃあるまいし…っ、ふふっ…、この令和の時代に…っ、身請け金って…っ」
「僕は真剣に悩んで相談したのに!」
「ほんとごめんね。雅己くんがほんと、可愛くて…っ、」
「まだ笑ってんじゃん!!全然悪いとか思ってないよね!?」
「あー、ごめんごめん、もうほんとに笑わないから怒らないで?ね?」
「だいたい何なの、800って。どっから出てきたのその数字!!」
「ほら、嘘八百って言うでしょ?」
「とんち効かせなくていーから!!(怒)」
怒りが治まらない僕は、ぷんすこしながら手元のハイボールをぐいっと飲み干す。
そんな僕を涙を拭いながら見つめていた洸が、ふいにその表情を和らげた。
「…うまくいったんだね、朔くんと。」
「まぁ…、…うん…。」
ここ一連のドタバタを洸にゆっくり報告する暇もなくて、今日は色々と伝えなきゃって呼び出したのに、なのにもー!
また沸々と沸き上がって来るぷんすこな思いに、僕は顔面偏差値最上級の洸の顔を軽く睨み付ける。
「D-clubのことなら、朔くんはもう辞めるって伝えたみたいだよ。」
「え!?」
そんなこと全然知らなかった。
ほら、とD-clubのサイトを見せてくれた洸の携帯を覗き込むと、確かに朔くんの写真がそこから消えていた。
「こないだD-clubのオーナーしてる友達と飲みに行ったときにそんなこと彼が確か言ってたんだ。それで、あぁ雅己くんとうまくいったのかな、なんて何となくは思っていたんだけど。」
「…そっか。」
実はあれから僕も朔くんも互いの生活にバタバタでゆっくり会う暇がなくて、短い電話くらいしかしてなかった。
朔くんは昼間ホテルの清掃の仕事も掛け持ちでしていたらしくて、D-clubに行かない分、夜もその仕事を入れてもらっていると話していた。
お母さんの調子も良いみたいで、病院と仕事を行き来してるらしい。
力になれることなら何でもしたいと思いながら、なんの役にも立てていない自分に歯痒い思いもしていた。
だから、D-clubを辞めるためにお金がいるなら…!って思って、断腸の思いで洸に相談したのに…!!
結局、また飲み会の度に笑われるネタを提供しただけで終わってしまった。
「…朔くんは幸せだね。雅己くんにこんなに大切に想われていて。」
ふいに洸が溢した言葉に、僕は洸に視線を向ける。
洸は最高にイケメンな、優しげな、それでいてどこか少し寂しげな笑顔をその絵画みたいな整い切った口元に浮かべていた。
「洸だって、あの甘々な…えと、大輝さんだっけ?どうなの?付き合ったりしないの?」
「…どうかな。色々あるから、大人には。」
「何それ僕も洸と同い年なんですけど。」
「そうだね。…まぁ、俺も俺の幸せをちゃんと考えてるから、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。」
どこか含みをもたせた洸の言葉は、これ以上は聞かないで欲しいって、そう言っているような気がして、僕もそれ以上は何も聞けなかった。
「そうかなぁ。大輝さんと一緒にいる洸、凄く幸せそうに見えたけど。 」
幸せそうっていうか、胸焼けしそうだったっていうか…。
「あぁそうだ、お祝いしなきゃいけないね。せっかくだからまた4人で集まろうか。」
そんな僕の心を知ってか知らずか、洸はにっこりと笑みを深めた。
「いーけど、また隣の部屋で突然始めるの止めてね…。」
「もう雅己くんたちは恋人同士なんだから別にいいじゃない。」
「いや全然良くないから…。」
もうイケメンってどんな貞操観念してんの。
げんなりした顔の僕とは対照的な、ほんと50人くらいなら一瞬で悩殺出来そうな艶やかな笑みを洸は浮かべている。
「照れなくていいよ。せっかく4人で出来るんだしね。」
「いやいや!!出来るって、飲み会のことだよね!?誤解を生むようなやらしい言い方止めて!?」
ふふ、って笑う洸にいや怖い!!って返したりしながら、それでも数ヶ月前にここで洸と飲んだりしなければ、朔くんに出逢えてもいなかったな、と思ったりもして…。
「雅己くん、今度こそ幸せになってね。」
洸はいつもの耳から溶けていくみたいな美しい低音ボイスでそう言って微笑む。
「洸もね。」
返した僕に洸はまた少しだけ寂しそうにも見える目をして―。
…でもすぐにしっかりと頷いてくれたのだった。
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