最終章 たとえばこんな、ラブソングみたいな

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雅己が勧めてくれた定時制の高校に無事合格することが出来た俺は、この4月から夜間の部に通い始めていた。 昼間はホテルの清掃の仕事を続け、夕方からは学校に通うような生活だ。 教師という仕事をしているだけあって雅己は、受験勉強の時も、今も勉強がわからないときなんかもとても力になってくれている。 真剣な顔で勉強を教えてくれる姿を間近で見ていると、つい見蕩れてしまったりして、勉強にならないこともしばしばで…。 まぁ、それは一旦置いといて。 それから、仕事や学校に余裕がある時は、洸さんのオフィスでバイトもさせてもらっている。 洸さんの経営する会社は、教育系のアプリや教材の開発や、様々な理由で学校や塾に通うことが難しい人向けにリモートで授業が行えるシステム作りなんかを行っているらしい。 俺みたいに大人になってから学校にまた通い始める人の支援なんかも行っていきたいみたいで、雑用係ではあるが、俺の話なんかも参考にしたいと言って、重宝してくれている。 洸さんは普段は俺から見てもかなりキリッとしていてカッコいいのに、雅己の普段の天然話を聞かせた時だけはツボに入ったみたいに笑い転げているので、それを聞きたいがためだけに俺を雇ってくれているのでは…と密かに思ったりもしている。 「よし、全部入った!!」 冷蔵庫の蓋を手早く閉めた雅己が満足気な声を上げた。 一仕事終えた感のあるそんな雅己の肩に、俺は待ち構えていたようにこてん、と甘えるみたいに頭を乗せた。 「雅己、お腹空いた。」 「あ、ほんと?」 条件反射みたいに雅己はよしよしと頭を撫でてくれる。 「今日学校行くまでにあんま時間なくてパンしか買う暇なかった。」 「あー、そりゃお腹空くね。お風呂沸かしてあるから入っておいで。その間に僕、なんか簡単なもの作っとくから。」 「パスタがいい。たらこのやつ。」 「はいはい。」 「海苔もぱらぱらってしてね。」 「了解。」 頭を肩に乗せたまま雅己を見上げると、至近距離で目が合う。 そのまま自然と互いにちゅ、と軽く唇を合わせれば、胸が甘く疼いた。
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