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それから数日後の定休日。俺と彰は、家で二人、のんびり過ごしていた。すると彰が、唐突に言い出した。
「ねえ、昴太。二人で昼風呂でも入らない?」
彰は何でもないことのように言うが、俺はドキリとした。二人で風呂、というと、俺は必ずあの事件のことを思い出すのだ。事件が起きたのは、まさにその翌日だったから。だから俺はあれ以来、彰と一緒に風呂に入ることを拒み続けている……。
「こんな狭い風呂場じゃ、無理だって」
俺は取りあえず、いつもの言い訳を口にした。だが今日の彰は、やけにしつこかった。
「大丈夫だよ。そろそろ涼しくなってきたし、一緒に温まろう? そう思って、入浴剤も色々買って来たんだよ」
そう言って彰が出してきたのは、可愛らしいパッケージの入浴剤の数々だった。
「こっちはフルーツ、そっちはチョコレートの香りだって。昴太、甘いの好きでしょ?」
俺は内心呆れ果てた。
「お前なあ……。ここまでして、俺と一緒に風呂に入りたいわけ?」
すると彰は、意外にも深刻な表情になった。
「それだけじゃないよ? 昴太に、リラックスして入浴して欲しいんだ。昴太、ずっと風呂に抵抗感があるような感じがしてて。ひょっとして、トラウマがある?」
俺はドキリとした。確かに、影山さんに浴室に盗撮カメラを仕掛けられたことで、俺は風呂そのものが何となく怖くなった。とはいえ、入らないわけにはいかないから、手早くシャワーするだけで済ませるようにしているのだ。まるで烏の行水、といったところである。
――気づいてたんだ……。
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