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「にーちゃん、あれなに?」
幼い声に呼ばれて篝は振り返った。
自分より頭1つ小さな妹が、とろんと溶けそうなオレンジ色の下にあるものを指さしているのが見える。
「どれだ?」
兄が自分の指さすものを見つけられない事に焦れたのか、ぱっと小さな2つ結びのおさげが走り出す。動くものなのかと目を凝らすと、妹が追いかける先に奇妙なものがある事に気が付いた。
影だ。
にょろりとした蛇のような影が、太陽の方へ向かって地面の上を泳いでいた。その影の後ろをまるで犬猫を追いかけるかのごとく楽し気に妹が駆けている。奇妙な光景だ。
「あっ」
あの影は何の影なのだろう。周囲に視線を巡らせていると、妹が驚いたような声をあげた。慌てて目を向けるが、そこに妹の姿はない。
「蛍?」
呼ぶ声に応えるものはない。
いつの間にかあの奇妙な影も消え、どろりとした燃えるような夕陽が、無感情に見つめるばかりだった。
夕暮れ時、稀に太陽へ伸びる不可思議な影がある。
もし、その影を見かけても追いかけてはいけない。まかり間違って踏んでしまったりなどしたら、影曳に捕まってしまうから。
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