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「ユキさん、自分は何が本当の話なのかは判断が付かないけど、今の仮説は十分にあり得る話だと思いました。人間として恥ずかしいけど、誰かを悪者して、いや、誰かが悪者になって、誰かが助かるという話は、今も昔もよくある話です。ユキさんのお姉さんが無差別殺人鬼じゃないのなら、きっと今の話は本当なのかもしれない」
幹夫は、本当は「そんなの出鱈目だ。人間を悪く言うな」と言いたかったが、あまりにも身近でよくある話なので全く否定できなかった。自分の失敗や苦難を、反論してこない何かのせいにすることは現代社会ではよくある話である。「自分が苦労しているのは、社会・政府のせいだ、会社のせいだ」などといって、責任や原因の所在を、曖昧なものに転嫁することは日常茶飯事である。
茂作殺害当時、幹夫は存在していなかったが、なんだかユキさんのお姉さんに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
近くの針葉樹から、ゴソッと、雪の塊が幹夫の足元に落ちてきた。
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