雪女の隠し事・なぜ彼女は茂作を殺害し、夫と子を残し失踪したのか

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「まあ、幹夫は人間として生まれ、人間として育てられたから、あまりその辺の感覚が分からないかもしれないけど、人間は自分たちの空間に異物が入るのを極端に嫌がるし、そういう者が自分の領域に入るなら排除してもいいと思っている。幽霊や妖怪がいるとなれば、やれ除霊だ、お札と騒ぎ始める。姉さんは何もしていなかったのに。姉さんは、村人が自分だけでなく、将来10人の子供や、巳之吉も一緒に攻撃されることを心配して、自ら失踪した。この選択は夫婦間で話し合った結果だった。まあ、今の時代だったら、国外逃亡とか、もっと別の選択肢もあったかもしれないけど、当時はそういう時代じゃなかったの。昔話では、別れ際、旦那に、“子供を大事にしなければ、お前を殺しに来る”と脅迫したことになっているけど、あれは姉さんの普段からの口癖。姉さん、言葉が汚いのよ。すぐに“死ぬほど好き”とか、“あのひと殺したいくらい嫌い”とか、直ぐに死ぬとか、殺すとか言うの。姉さんに“子供を大事にしなければお前を殺しに来る”と言われた旦那は、本当は、笑いながら“ああ、分かってるよ。こんなことになって申し訳ない。”と微笑みながら答えたらしいわ。夫婦間のいつものコミュニケーションだったのよ」
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