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雪山を登り始め、午後2時にはテント設営場所に到着し、こなれた手つきで、お握りのような形をした一人用の小さなテントを設置した。決して眺望がすばらしいという山ではないが、その分、人気もなく、たまに針葉樹から雪がボタッと落ちる時の音くらいしか聞こえてこない静かな雪山である。
テント設営後、雪上に体育座りし、雪山の空気を吸いこみ、足跡の付いていないキラキラ光る雪原をうっとり眺め、たまに遠くで雪が滑る音をBGMのように聞いた。こういう名状しがたい贅沢な気持ちを味わいたくて、幹夫は毎年一月、雪山にテントを張っていた。
空に朱色が混じってきたころ、幹夫の腹の音が雪山の中に響いた。テントの中からガスバーナーと、「ポタージュスープの粉」と、「インスタント味噌煮込みうどん」を取り出した。これも毎年、恒例の食事である。
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