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青白い顔を赤くした幹夫の背後約2mの雪上に、髪の長い女性が一人、腰に手を当てながら堂々と立っていた。黄昏時を過ぎたわずかな明かりの中で、女性は、片方の口角を歪ませながらやおら近寄ってきた。醜態を見られた幹夫は、頭に血が上り体温が上がっているはずなのに、女性が一歩近づくたびに、不思議と周りの気温が下がっていくように感じた。
「聖子ちゃんが好きなの?お笑いね。でも、私も好きよ」
女性は体育座りしている幹夫の側に立つと、幹夫の頭を撫でながら言った。
指が幹夫のつむじに触れた瞬間、彼は横にいる女性が人間ではないと、はっきり感じた。そもそも、こんな人里離れた山の中、浴衣のような防寒機能ゼロの白装束、裸足、そしてこの腰まで届く黒髪、美人薄命という言葉にマッチする美しい容姿、とても人間とは思えないものがヒシヒシと伝わってくる。
ゆきおんな、ユキオンナ、雪女!!
幹夫は心の中で繰り返し叫びながら、昔聞いた雪女の話を思い返す。
たしか、昔話で雪女は…。
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