雪女の隠し事・なぜ彼女は茂作を殺害し、夫と子を残し失踪したのか

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 たしか昔話では、巳之吉は18歳のイケメンだったから殺害されなかったと語られているが、今の自分はどうなんだろう。30歳。微妙だ。昔話では雪女に殺害されたのは老人となっているが、当時の平均寿命は今よりも随分と短かっただろうから、30歳なんていうのはすごく微妙である。  コーンポタージュスープを手渡された彼女は、幹夫の顔を見ながら「ありがとう。別にあなたのことを、どうこうしようなんておもっていないわ。安心しなさい」とお礼を言った。一瞬触れた彼女の指先は氷のように冷たく、やはり生きた人間でないと幹夫は思った。 「あのお…、熱くなかったですか?」  幹夫は熱々のコーンポタージュスープを手渡した後で、今更心配した。 「別に。そんなことより、曲かけてよ」彼女は何事もなく湯気の立つスープを口にして、ズズッと啜りながら幹夫の隣に正座した。  スマホ画面の明かりで、二人の周りだけがぼんやりと明るくなる。幹夫と彼女は顔を近づけてスマホの画面をのぞき込み再生ボタンを押した。人気のない雪山で、二人は黙って赤いスイートピーを聞いた。
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