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「なるほど、事情はわかった。」
長瀬さんの話をきく
「明日からは裏方の仕事覚えてもらおうかな。」
「お願いします。」
後で聞いた話なのだが、常連さんへの接客からはじめて徐々に今まで通りに働かせることが玄さんの狙いみたい。
長瀬さんはまだ若いから人と楽しく接することを諦めないでほしいって言ってたな。これが親心ってやつなのかな。
土曜日
俺はいつもの席でいつものメニューを注文する。
いつも通りではあるが、違うとすればお店に入った時にいる店員さんが長瀬さんではないということぐらいだ。
厨房の方を覗くと長瀬さんが黙々と頑張って働いている。その姿に安心して俺はどら焼きにかじりつく。美味い。
1ヶ月後
「玄さんの思った通りになって良かったですね。」
前と同じように接客する長瀬さんを見ながらカウンター越しの玄さんに話しかけながらコーヒーを飲む。
ん?この味は。
「凪坊のおかげだよ。ありがとう。」
「いやいや、俺は特に何もしてませんよ。ってか玄さんにはまだ及びませんが、長瀬さんコーヒー淹れるの上手くなりましたね。これ淹れたの長瀬さんですよね?」
「よく分かったな。」
「前にカレーの前後で出してもらったのと同じ感じだったんで。」
「カレー?前に出してもらった?詳しく聞かせてもらおうか。」
拭いていたコップを置いて、カウンターから乗り出して顔を俺に近づけてくる。玄さんの威圧に少し怯む。
「理由聞きに行った時に飲ましてもらったんですよ。」
「貴様、まさか家の中に入ったのか?」
「まあ、はい。」
「嫁入り前の娘の部屋にこんな男が入るなんて、なんてことだ。」
こんな男って、あんたが聞きに行けって言うたんじゃないのよ。なんか思ったより俺の評価が低くてショックだな。
「手ぇ出してねぇだろうな」
胸ぐらを捕まれ、睨みつけられた俺はびびって声を出せず、首を横にふる
「手ぇ出すんじゃねぇぞ。」
こくりこくりと頷く。
前から思ってたけど、玄さんって親バカだよな。
長瀬さんの時だけ凄い怖いもん。
「夕凪くん、今日のコーヒーの味?」
このタイミングで長瀬さん登場。今は少し話しかけて欲しくなかったよ。
けど、ここは素直に感想を伝えるか。
「まだまだ玄さんには及ばないね。けど、この間飲ませてもらった時よりは美味しくなってるよ。」
「ホント?やった!ってかアタシが淹れたってわかったんだね。」
「玄さんのとは違ったからね~」
「ところで、この後って予定空いてる?アタシ17時までなんだけど。」
さっき玄さんに家まで行って部屋に入ったことを恫喝されたばかりなのに、このタイミングでの長瀬さんからのお誘い。収まった殺気が再び俺に向けられる。
「予定はなかった・・やっぱりあったかな~。」
「手ぇだすなよ。ゆ、う、な、ぎ、く、ん。」
玄さんは俺にだけ聞こえるようにボソリと今日1の殺気を込めて伝わってきた。
「凪坊はこの店の後に予定なんか入れてねぇだろ」
これは行ってもいいって言う合図なのかな。
ってかなんか断ったら断ったで玄さんになんか言われそうな雰囲気。
「大丈夫だよ」
時計を確認すると16時30分を差している。
玄さんの威圧感から解放された俺は、17時まではのんびりと一人でまったりと癒しの時間を過ごした。
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