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「おまたせ」
ウエイトレス姿から私服に着替えた長瀬さんは心なしか緊張しているような気がする。
今日は白のカーディガンを羽織り、黒のマキシスカートという服装だ。マキシスカート好きな俺としては嬉しい服装だ。
「行きましょっか。」
俺はお会計を済ませて長瀬さんに続いて店を出る。店を出る時の常連の視線が痛かったが気にしないことにした。
「どこ行くの?案内するよ。」
お店を出てすぐに俺は長瀬さんに行き場所を聞いたのは前回のことがあるからだ。スタートから逆に行かれたら歩く距離が倍になっちゃうよ。
「ありがとう。けど大丈夫。近いから。」
自信満々に歩き出した長瀬さんの後をついて歩く。
そして、少し歩くと長瀬さんの家が見えてきた。
「はい、到着」
「目的地って長瀬さん家だったの?」
「そうだよ」
自分ん家まではさすがに間違えないよな。
ってかさっき玄さんに家入ったこと怒られたばっかりなのにこれっていいのか。
そんな俺の思いを知らずに長瀬さんは手招きをする。
ここまで断る術を知らない俺は再び長瀬さんの部屋へと招かれた。
部屋はこの間来たときと同じようにキレイに片付けられていたが、クローゼットから服の袖がはみ出しているのを見て、またわざわざ片付けたんだと思った。
コーヒーを持った長瀬さんが部屋へと入ってきて、一つを俺の前に置く。
「改めて、玄さんのお店を辞めなくて良かった。夕凪くんありがとうね。」
「俺は何もしてないよ。長瀬さんの力だよ。」
「ううん。アタシ一人だと無理だった。れ、れ夕凪くんが話を聞いてくれたから玄さんに相談する気持ちにもなれたし。」
「そんなもんかな。まあ長瀬さんが辞めなくて俺も良かったし、玄さんも喜んでたし円満に解決出来そうで良かった。また上手くなったね。」
話終わりに一口飲んだコーヒーは前より香りが良くなっていた。
どんどん上達している気がする。
そして、笑顔を見せた長瀬さんの顔が少し真剣な顔に変わる。
「夕凪くんって小学校の時どんな子だったの?」
「急にどうしたの?」
「いいから教えてよ。知りたいの」
「んー小学校の時は本読むのにハマってたかな。昼休みとかよく図書館行ってた。」
「中学は?」
「中学は部活やりだしたから、勉強せずにずっと部活部活部活って感じだったかな。」
「なんの部活やってたの?」
「野球部」
「野球上手かったんだ。」
「ううん。下手くそだよ。ベンチにも入れなかったし。」
「高校は?」
「高校もおんなじかな部活部活って感じ。」
「彼女とかはいなかったの?」
「それはトップシークレットです。長瀬さんはどんな子だったの?」
小学校、中学、高校の友達とは今でもたまに遊ぶが、思い出すとなんだかなつかしく思う。
めんどくさい事もあったけど、今思ういい思いでだよな。
「アタシ昔の記憶がないの」
過去の思い出に浸っていた俺はこの長瀬さんの一言で急に現実に戻される。
「アタシの覚える記憶で一番昔は去年病院のベッドで目が覚めた時にお母さんが抱きついてきてくれたこと。アタシ事故にあったんだって。だからそれより前の記憶・・忘れちゃったみたいなの。」
記憶がない。
つまり記憶喪失ってこと?
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