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「ここか」
長瀬さんの家には喫茶店から5分ほど着いた。
204号室ってことはあの部屋か。
俺は階段を一段ずつ上り、長瀬さんの部屋の前に立つ。
なんか急に緊張してきた。玄さんに言われるままに勢いで来てしまったが、良かったのだろうか?いきなりきて逆に迷惑で怒ったりしないだろうか?
頭を抱えてしまうが、人の部屋の前でこんなことしてたら警察呼ばれそうだ。
ここは腹をくくろう。
チャイムへと指を伸ばして押す。
しかし誰も出てこない。
留守なのか?
その後2回チャイムを鳴らしたが誰も出てこなかった。
仕方ない、出直すか。
帰ろうとした時、誰かが階段を上がってくる。
階段の方を見ると髪がボサボサで黒のスウェット姿の長瀬さんが登ってきた。
「ゆ、夕凪さん・・」
俺が気付くと同時に長瀬さんも俺に気付いたようで手に持っていた袋を離して、Uターンして階段を急いで降りる。
「ちょっと長瀬さん、待って!」
俺は急いで逃げる長瀬さんを追いかける。
長瀬さんはサンダルみたいであんまり早くない。よし、直ぐに追い付ける。
次の交差点で追い付けそう。青信号が点滅して赤信号になる。
しかし、それに気付いていないのか長瀬さんはスピードを緩めることなく、横断歩道に突っ走る。
嘘だろ。俺は久しぶりに全力で走りだす。
「きゃっ!」
なんとか間一髪で、横断歩道に入る直前に長瀬さんの腕を掴むと自分の方に引き寄せた。
そして引き寄せた勢いで2、3歩後ろへ後退する。
「あっぶねぇ。間一髪だな。長瀬さん、怪我はない?」
コクリと頷く。
俯いて顔が見えないので、表情はわからないが大丈夫なら良かった。
「玄さんが心配してましたよ。突然理由も言わずに辞めるって言うもんだから。」
「夕凪さんはどう思いましたか?アタシが辞めるって聞いて。」
「驚きましたし、心配にもなりました。もしかしてこの間のことが原因なのかなって。やっぱりこの間のことが原因なんですか?」
俺の問いに少し沈黙があり、長瀬さんは俺を顔を合わせない程度に顔をあげる。
「すいません。また明日来てもらえませんか。こんな格好でこれ以上お話はしたくないので。」
そういわれて見れば確かにいつもは髪型も綺麗に結んだポニーテールで服装はウエイトレスの姿だけど、今は髪はボサボサ、服装はスウェットと随分ラフな格好だ。俺は気にしないのだが、彼女が気にするなら仕方ない。
明日だと仕事ちょっと遅くなりそう。
「わかりました。けど明日だと仕事があるので、19時ぐらいになりそうですが大丈夫ですか?」
「はい」
「じゃあまた明日伺いますね。」
俺は少し距離を取って彼女を家まで送ると自分の家に帰った。
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