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次の日仕事が終わって長瀬さんの家に着いた。
時計を確認すると、ちょうど19時を指していた。
少し腹減ったなっと軽い感じで、チャイムを押す。
昨日と同じようにピンポーンっという音が微かに聴こえる。
少しするとドアが開き、長瀬さんが姿を表す。
今日の長瀬さんは髪は綺麗にストレートでおろしてあって、服装も白いのシャツに紺のカーディガン、そして濃いみどりのロングスカートだ。
昨日ともお店の時ともおつかいに行った時とも違って可愛いくみえる。
「こんばんは」
「こんばんは、遅くにごめんね。」
「いえ、どうぞ。」
どうぞ?
これはつまりお家に入ってくださいって意味だよな。
女性の家に入るなんて今さら緊張してくる。
中に入ると、間取りは1Kみたいで、キッチンに長瀬さんは入り、俺は奥の部屋へ。
入ると机の前に座布団があったので、そこに座らせてもらった。
部屋はベッドにテレビ、そしてこの机が置いてあるだけで、なんかこうイメージしている女の子の部屋って感じではなかった。
「どうぞ、コーヒーです。」
「ありがとうございます。凄い綺麗に片付けてますね。僕の部屋とはえらい違いですよ。」
「いえいえ、物があまりないだけですよ。」
ガタガタガタン
クローゼットで何かが崩れる音がした。クローゼットの方に振り返った後、長瀬さんを見ると少し顔を赤くして俯いている。
「昨日少し片付けたので」
これはけっこう恥ずかしいんだなぁっと察して部屋についてこれ以上触れるのは止めておいた。
「ん、このコーヒー美味しいですね。」
「本当ですか?嬉しい。最近玄さんに少し教わって練習してて、夕凪さんのお口にあって良かったです。」
顔を上げて嬉しそうな笑顔を見て、どうやらお店が嫌いになったわけではないようで安心した。
嬉しそう笑顔可愛い。
このまま他愛もない話して過ごしたいなと思うんだけど、今回は世間話するために来たわけじゃないんだよな
この笑顔をみた後だと聞きにくいな。
けど聞かないとな。
「コーヒーの勉強までしてるのになんで突然お店やめちゃうですか?昨日も聞いたけどやっぱりこの間のことが原因なんですか?」
「夕凪さんはアタシが辞めるって聞いてどう思いましたか?」
表情が明らかに雲っていく。
そしてまさかの質問返し。しかも昨日と同じ質問。
「昨日も言いいましたけど、驚きましたよ。」
「それだけですか?」
「あとはもうお店に行っても長瀬さんに会えないかと思うと少し寂しくもなりましたね。長瀬さんが居て、玄さんが居て他の常連客が居てっていうお店の雰囲気が好きだったので。」
長瀬さんは昨日もこの質問をしてきたのだが、本当はなにを聞きたくて、どう言ってもらいたいのか、いまいち真意が読めない。
少し沈黙の後に、長瀬さんが口をひらく。
「理由、やっぱり話さないとダメですか?」
表情と声の感じから今は話したくないという気持ちが伝わってくる。
「聞いた僕が言うのもなんですが、言いたくないなら言わなくてもいいですよ。無理に聞く気はありません。」
理由は知りたいけど、どうしても、なにがなんでも知りたいってわけではない。おそらく玄さんもそうだと思う。
「ならなんで聞いたんですか?」
ごもっともな返答がかえってきた。
そりゃそうだよね。
「玄さんに頼まれたからです。玄さん凄い長瀬さんのこと心配してましたから。」
何か期待していたのか、一瞬顔を上げて俺の方をまっすぐみたのだが、俺の答えを聞くと再び俯いてしまう。
なぜなのか俺には理由がよくわからないが、こんなに落ち込んだ長瀬さんは嫌だな。
いつもの長瀬さんに戻ってほしい。またいつものようにお店に行ったら当たり前のように居てほしい。
「あと俺自身としては、長瀬さんに辞めて欲しくないからです。だから理由がわからないと止められないじゃないですか。」
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