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炎魔ヴァルの怒れる盾よ、虚空に姿を現わさん──
窪地に足を踏み入れたエトーの姿を認めた対岸のゲイナーは呪を唱え、杖を翳した。
直径は人の身長程もあるだろうか、曇天の空に円形の魔法陣が姿を現す。
やはりな── エトーの笑みが深くなる。
魔法使いが騎士に一騎打ちを挑むのだから、呪文の準備くらいしているに決まっている。エトーの読みどおりだった。
「魔陣烈火弾!」
「覚醒!」
ゲイナーの呪文発動と、エトーの能力発動はほぼ同時だった。
エトーの視界が一気にスローモーションに変わる。
づどどどどぉん!
空に浮かぶ魔法陣がオレンジ色に輝き、次の瞬間それは十数本の炎の槍と化してエトーのいる窪地に降りそそいだ。
燃え上がった焔はどういうわけかすぐに消え、不幸にも流れ弾を食らった数体の骸骨兵が炭化して崩れ落ちる。
常人、いや騎士だとしても並レベルの相手なら、これで十分仕留めることが出来たであろう。
が、エトーは並の騎士などではなかった。
能力を開放し、覚醒したエトーは常人の30倍ものスピードで動ける。音速で動く彼の前では火炎の槍も、骸骨兵や泥兵たちの動きも、欠伸が出るほどのスローなスピードでしかない。
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