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「くっ!?」
エトーの持つ切れ長の目が2つの驚愕に見開かれる。一つ目の驚きは、エトーが読み取ったゲイナーの内心が「勝利の確信だった」こと、そして今一つは、エトー自身を襲った尋常ならざる息苦しさと目眩、そして吐き気だった。
な、何故だっ!?
ゲイナーを掴んだエトーの手が緩む。その隙を逃さずゲイナーはその手を振りほどき、エトーの腹に蹴りを入れた。
まともに蹴りを受け、数ヤード下に転げ落ちたエトーにゲイナーはゆっくりと近づく。
「昔、異世界から来た女が教えてくれたんだよ。火がすぐに消える場所にはタンサンガスっつー無色無臭の毒ガスがあって、そいつは空気より重いから下のほうに溜まるってな。この窪地はそーいう場所だったんだよ。」
ゲイナーが発見したこの場所は、瘴気の沼から発生する大量の炭酸ガスが充満した死の窪地だった。数分で人を死に至らしめるその危険な窪地に既にエトーは常人換算で2分近く、それも激しく戦いながら滞在しており、おまけにただでさえ少なかった酸素はゲイナーの火炎魔法であらかた消失してしまっていた。
「アンタの誤りはスフォルツァを殺ったことじゃない。無関係なメイドまで手にかけたことだ。あの世でたっぷり後悔しな、エトー。」
次第に暗くなる視界と薄れゆく意識の中でエトーが最後に見たのは、トドメを刺すべく水竜剣を振り上げる魔人ゲイナーの首にかけられていた、天使の羽根を模したペンダントチャームだった──
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