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「いらっしゃいませ」
カランカランと音を立てて、一人が酒場に入って来る。フード付きマントを着ていて、風貌は分からない。かろうじて分かるのは、プラチナブロンドの長い髪と男性的な服装という事。
「香茶ちょ~だい」
マントのその者は、呑気にそう言った。勿論、あるにはある。だが。
ドッと笑い声が起こった。ここは酒場。普通は酒を頼むところである。先客の酔っ払い達からしてみれば、「お門違い」である。
「アンタ、ここは酒場だぜ? 場所間違えてんじゃねぇのか?」
ゲラゲラ笑いながら、酒臭い男が一人、マントの者に近づく。
「近寄んない方がいいですぜ、旦那」
それを制したのはマントの者の隣に座っていた、別の男だった。
「なんせコイツはあの有名な、『白百合の悪魔』だからな」
途端に場が凍り付く。『白百合の悪魔』と言えば、このローゼンベルクで知らぬ者はいない。
「や、久しぶり。元気だった?」
何事も無かったかのように振る舞う白百合。
「白百合さん、アンタから仕事とか珍しいね。もう引退するんじゃなかったでしたっけ?」
隣の男は言う。
「裏を辞めるとは言ってないし~?」
白百合はケラケラと笑う。それを眺めた隣の男は「相変わらずだね、アンタ」と苦笑する。
「マスター。奥、空いてる?」
ここは裏の世界に生きる者達の酒場。
白百合の目的は、この隣にいる男……情報屋から、情報を買う事だった。
「空いてますが、香茶はどうします?」
「あとで」
「どうぞ」とマスターはカウンターの通用口を開ける。
店の奥には裏の者が情報を売り買いする為の、専用の部屋があるのだ。
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