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「マキちゃん、どこかに行っちゃうんですか?」
「まだ少し先なのですけど、お引越しされるそうです。遠い町のようで、ここに来られるのももう少しだからと、今朝いらっしゃったんです」
「そう・・・ですか」
「でも、絵たっくさん描いて、いつかまた見せてくださいって約束したんですよぅ。だからきっと大丈夫です~」
みーこちゃんがカウンター席に座って浮いた両足をぱたつかせながら嬉しそうに言います。
「時には外の世界を見てくるってのも大切だからなぁ。良いことも悪いことも全部ひっくるめて経験だ。つらいことも乗り越えて自分のものにしてやった時は成長の時だ。マキちゃんて子も、きっと色んな刺激を受けて絵もどんどん上手くなるさぁ。帰ってくる場所があるってだけで頑張れるもんさ」
お皿を片付けていた私に堤さんが「ねぇ、そうでしょう」と目を向け、私も頷き返しました。
それから暫くして、神社のある丘陵から写真を撮りに行くと、堤さんは意気揚々と帰って行かれました。
冬の薄い日差しが、窓際から少し離れた西野さんのテーブルに小さな陽だまりを落としています。
ボサノバが軽やかにメロディを奏でる中、アキがひとつ可愛らしいくしゃみをしました。
「みーこ、アキのお散歩に行ってきますぅ。西野さん、ゆっくりしていってくださいねぇ」
首輪にリードを着けてお散歩バッグを持ったみーこちゃんも、「早く早く」と急かすように息荒く尻尾を振っているアキと一緒に商店街の道を駆けて行きました。
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