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再び静かになった店内に、店の周りで鳴くチュイッチュイッとハクセキレイのさえずりが聞こえてきます。
西野さんは本を読んでいらしたので、私はキッチンの中の椅子に腰かけて、その声に耳を傾けていました。
「嘘、なんです」
窓からセキレイがちょんちょんと地面の上を小走りしているのが見えて観察していると、西野さんが弱弱しい声で呟きました。
「マキちゃんに、出版社に勤めてるなんて言って、偉そうに期待させるような事言いましたが・・・本当は違うんです」
本を閉じた彼は、俯いて嘆息しました。
「でも、絵を辞めてほしくなかったから・・・。出版社に勤めてる人から褒めてもらえたら嬉しいだろうなって。嘘ついてたのに、今までずっと黙ってて」
彼は底に僅かに残ったミックスジュースを飲み干しました。
「その嘘は、悪い嘘でしょうか」
私はお盆を手に西野さんの向かいの席に腰を下ろします。
「え・・・」
「嘘だったにしても、西野さんの気持ちは本当でしょう?学校に居場所を無くして、自分の好きな事にも自信を無くしかけていた女の子の背中を押す事は簡単なことじゃありませんよ。今朝も、西野さんが応援してくれたから頑張るって仰っていましたから」
「そう、なんですか」
「えぇ」と私が頷くと、西野さんは日差しに頬をほんのり赤らめながら俯きました。
「み、美鈴さん」
「はい」
「その・・・」
慌ててかぶりを振った彼は居住まいを正して、話題を変えるように
「宇佐美さんって、最近来てますか?」
と、少し上ずった声で言いました。
「えぇ、来ていらっしゃいますよ。時間はバラバラですけど、もしかして西野さんを待ってらっしゃったのかしら・・・」
以前いらした時に、ドアが開くたびに誰かを待っているような素振りをしていらっしゃった事がありました。
「僕、彼女にも学生の時に色々気にかけてもらっていたんです。当時は周りが見えてなくて全然気づいていなかったですけど。今更だけど、ちゃんとお礼も言いたくて。それに聞きたいこともあるので・・・」
その時でした。
リン
「おはようございますって、あっ!」
いらっしゃったのは、宇佐美さんでした。
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