2人が本棚に入れています
本棚に追加
昔、昔のお話、旅の若い男は遥か遠くの国を目指して旅をしていた。
ところが、行く先の道中、手持ちの食糧と水が底を尽いてしまった。
雨も全く降ってくれない、街を探してみたが、近くには無いようだ。
限界を感じながら、足取りも重くなりもう終わりかと言うところで、寺院らしき建物の前に出た。
「これは助かったぞ、食糧と水を」
と喜びいさんだが、弱り切った身体は、もう寺の門すら叩く事ができず、寺の前の大木の下にへたりこんでしまった。
しばらく寝転がったままでいると、寺の僧らしき人間が通りかかったので、最後の力を振り絞り、僧に呼びかけてみた。
「すいません、旅のモノですが、食糧と水が底を尽いてしまいました。食べ物と水を分けて頂けないでしょうか?」
僧は
「あなたのいる木の上をご覧なさい」
と旅人に告げた。
旅人が言われるままに上を見てみると、大きな、いや巨大な桃の実が一つだけなっている。
「ここは万桃寺、多くの桃がなります。寺の中の桃はあいにく差し上げられませんが、あれならば差し上げましょう」
と旅人に言うと、大木を揺すり始めた。
その小さな体格のどこにそんな力があるのか、ユッサユッサと大木を揺さぶった。
すると「ドスン」と音を立てて桃の実が落ちたのだ、僧は
「さぁ、お上がりなさい」
と旅人の前に桃の実を転がしてきた。
旅人は桃に夢中でかじりついた。
その味たるや、この世の物とは思えないぐらいの甘味と香り、そして果汁が豊かだったと言う。
旅人は僧にお礼を言うと、僧は
「あなたの旅が無事でありますよう」
と願をかけてくれた。
旅人はその後、無事に旅を終えたのだが、不思議なことに飢えや渇きに以前よりも遥かに強くなったと言う。
そして「万桃寺」なる寺を探したが2度と見つからなかった。
そして、旅人はその後150歳まで生きたと言う。
最初のコメントを投稿しよう!