万桃寺

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 昔、昔のお話、旅の若い男は遥か遠くの国を目指して旅をしていた。  ところが、行く先の道中、手持ちの食糧と水が底を尽いてしまった。  雨も全く降ってくれない、街を探してみたが、近くには無いようだ。 限界を感じながら、足取りも重くなりもう終わりかと言うところで、寺院らしき建物の前に出た。 「これは助かったぞ、食糧と水を」 と喜びいさんだが、弱り切った身体は、もう寺の門すら叩く事ができず、寺の前の大木の下にへたりこんでしまった。 しばらく寝転がったままでいると、寺の僧らしき人間が通りかかったので、最後の力を振り絞り、僧に呼びかけてみた。 「すいません、旅のモノですが、食糧と水が底を尽いてしまいました。食べ物と水を分けて頂けないでしょうか?」 僧は 「あなたのいる木の上をご覧なさい」 と旅人に告げた。 旅人が言われるままに上を見てみると、大きな、いや巨大な桃の実が一つだけなっている。 「ここは万桃寺、多くの桃がなります。寺の中の桃はあいにく差し上げられませんが、あれならば差し上げましょう」 と旅人に言うと、大木を揺すり始めた。 その小さな体格のどこにそんな力があるのか、ユッサユッサと大木を揺さぶった。  すると「ドスン」と音を立てて桃の実が落ちたのだ、僧は 「さぁ、お上がりなさい」 と旅人の前に桃の実を転がしてきた。 旅人は桃に夢中でかじりついた。 その味たるや、この世の物とは思えないぐらいの甘味と香り、そして果汁が豊かだったと言う。  旅人は僧にお礼を言うと、僧は 「あなたの旅が無事でありますよう」 と願をかけてくれた。 旅人はその後、無事に旅を終えたのだが、不思議なことに飢えや渇きに以前よりも遥かに強くなったと言う。 そして「万桃寺」なる寺を探したが2度と見つからなかった。 そして、旅人はその後150歳まで生きたと言う。
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