口にしてはいけない

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 昔、昔のお話、ある若い男が病床に伏せっていた時に見た不思議な夢のお話。  男が気がつくと、ある村の入り口にいた。その村はどこもかしこも鈴なりの果物が所狭しとなっていた。     その果物はどれもこれも熟れていてとても美味しそうだ。男は村人に 「果物を少し分けて頂けないでしょうか?」  とたずねると、村人は 「ああ、ええよ、たくさんお上がりなっせぇ」 と快く承諾してくれた。  男は夢中になってりんごや梨、ブドウをたくさんもぐと食べようと大きな口を開けた。 その刹那、男の腕をつかむ手がある。少女だ、歳の頃15ぐらいだろうか?なおも男は果物を食べようとするが、少女のつかむ手の力が強い、本当にこの少女かと思うぐらいに、男は 「なぜ止めるんだい食べちゃいけないの?」 とたずねると、それまで黙っていた少女は 「ここは黄泉平坂よ、だから絶対に食べちゃダメ」 と口を開いた。そこで夢は終わり、男は目を覚ました。 「全く不思議な夢だったな」 とつぶやいた。だが手が痛いのに気がついた。あの少女に握られていた手だ、見ると赤い手の跡がついている。男は地元の神主の所に行って、不思議な夢の件を一通り話した。神主は 「それは危なかったですなぁ、多分よもつひらさかでしょう。あの世に迷い込んだのですよ。そして、あの世の食べ物は決して口にしてはいけないのです。もし食べてしまった場合、この世には戻ってこれません」 男はゾッとした。しかし、あの少女はいったい誰だったのだろうか? わからずじまいだったが今日は祖母の7回忌、墓のある寺まで病気の身体を押していき、助かったことを墓に向かって何度もお礼を言ったと言う。
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