1.拾われたRadio

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 最寄駅に着き、ラジカセを置いていくのは不自然だろうと思い、取手を持ち上げる。蔓の巻きついた柵がはまったホームへ降り立つと、周りから視線を感じた。  赤いラジカセを持ちホームに降り立つ服姿のJK。なんて、ファンキーな光景に違いない。  改札口の駅員室を覗く。誰もいないのか、「御用の方は、インターフォンでお知らせください」と貼り紙がしてある。こういうのが一番苦手だ。出た人が威圧的でないか、女性? 男性? そんな些細なことが、紬には苦痛で、自分のダメさ加減に押しつぶされる。  インターフォンを押すと、ライトが付いた。三回押したが反応がない。ラジカセを置いて行こうかと迷ったが、置くのに適当な場所もない。  仕方なく今日は持ち帰り、また明日、出直すことに決めた。  電線の上を雲が列をなし通り過ぎていくのを見上げ、置いてきぼりを食らった心地になる。  この世界の、このちっぽけな場所で、今日も変わらず独りきり。  交差点で信号機を待っていると、コンビニが見えてくる。気分を上げるために、今日はアイスを買って帰ろうと思ったが、ラジカセを持っていることを思い出して、コンビニを素通りし、一本、路地に入る。  人から注目をあびるなんてもってのほかだ。人が少ない公園を突っ切ろうとしたとき、異変に気付いた。  奥の方から、男性の叫び声がしたのだ。何を言っているかはわからない。  ただ、騒がしく、怒気を含ませた声だ。 「ふざっけんな!」  何かが地面に叩くような金属音に、心臓が飛び跳ねた。  紬は辺りを見渡したが、木々が多くて声の主は見えない。学生鞄と、ラジカセを抱き抱えて、逃げるように公園を後にした。  息を落ち着かせて、玄関の鍵を開ける。  崩れ落ちるように、座り込んだ。  ついていない一日だ。そもそも、最近ついている日なんてあっただろうか。  紬は帰ると、すぐに明日を考える。  あと、12時間後には学校にいなければいけない。憂鬱で心臓が潰れそうに痛い。
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