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1.拾われたRadio
七見柊と出会った日。
ゴールデンウィーク明けの一年Aクラスの教室は異質な雰囲気を漂わせていた。
教室の前で足を止めると、四角く切り取られたガラス窓から覗く室内で、一点へと視線が集まっていた。それは、教卓前の一角、紬の席の辺りだ。
不安に駆られながら、扉を開けて一歩踏み入ってすぐに気が付いた。
いつもは空白の机に、大量の教科書や参考書が積まれている。入学早々、学校を一ヶ月ほど休んでいたクラスメイトが今日から登校するのだとわかる。
その右隣、自分の席へと辿り着き、腰を下ろす。
体が強張り鼓動が全身を波打ち始める。
正直、ずっと来ないで欲しいと思っていた。
もちろん身勝手な話だと、重々理解はしている。
紬は人と話すことが苦手だ。
好意的な人なら会話の糸口を探すこともできるが、少しでも威圧感を感じた瞬間、喉に飯粒を詰め込まれたみたいに、言葉を発することができない。有ること無いこと頭をよぎり、何が正しいか判断できなくなった結果、押し黙ってしまう。
どうしてこれほど臆病なのか、自分に嫌気が刺す。どうしてこれほど、自分は弱い人間なのだろう。
挨拶はどうしようか。登校拒否をしていたクラスメイトへの対応方法を考えていると、後ろの席の富岡結衣花のハスキーボイスが聞こえてきた。
「校門でりっちゃんに捕まったらしいよ。木内が言ってたんだけど、金髪だったって。ヤバいんだけど」
りっちゃんは、篠原立子。担任教師である。気さくだが、風紀に厳しいところがある。
背後から椅子を引いたときの床が擦れる音がした。
「え、うそ。不良ってこと? でも、イケメンだったらどうする?」
新田美沙が少しの期待と、試すような口調で問う。
「あーなんか、母親が土下座したらしいよ。髪色はそのままにしておいて欲しいって」
結衣花の発言に一気に場が白けたのがわかる。
「え、ママがついてきちゃったの?」
美沙が嘲けるように言った。
なんとも、嫌な気持ちになる。自分たちだって、入学式に親がついてきたではないか。
美沙の言葉を合図に、側にいた女子達が集まりだして、口々に囃し立てる。その間も、紬はどうしても振り返ることができない。
彼女たちの中に、天野紬は存在しない。
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