1.拾われたRadio

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「それで、りっちゃんは?」  女子の声が対角線上で飛び交う。 「もちろん、却下。今週中に黒くする条件だって」 「今週って、今日木曜だよ。それ、木内見たの?」  間髪入れずに、美沙が質問をねじ込む。  美沙は黒髪ストレートの美人で、大人びた印象を受ける。レスポンスが早く、口調が鋭い。 「いや。さっきネグチと、沢田が言ってるのを聞いただけだよ」  いつからその場にいたのか、木内君の気弱そうな声が聞こえた。いつも、女子に命じられて偵察を頼まれている情報屋だ。 「え、ネグチと沢田、学校でもイチャついてんの!? ないわー」  結衣花が大きな声を発する。クラス委員長で有り、ムードメーカーな彼女の発言を埋めるように、中藤(なかとう)雪実(ゆきみ)の大人しい笑い声が耳へ届いた。  雪実とは、幼稚園からの幼馴染で、同じ高校に行こうと約束した仲だが、同じクラスになってから一度も会話を交わしていない。 「うわ! 一限目、ネグチかよー」 「まさか結衣花、宿題忘れた?」 「結衣花はいつもだし」  結衣花の発言に雪美がまた小さく笑う。  ネグチは、数学担当の野口忠光(のぐちただみつ)。寝ているか起きているのかわからない覇気のない外見から、生徒たちが付けたあだ名である。新米英語教師の沢田真知子(さわだまちこ)と一緒に映画館にいる姿を見られて以来、揶揄いの的だ。 「まだこないね。叱られてるのかな?」  珍しく雪美がつぶやく。 「そりゃ、そうでしょ」 「今ごろママと別れを惜しんでるのかもね」 「結衣花なら、恥ずかしくてまた休むわ」    そのときだった、見知らぬ男子生徒が入ってきた。  静まり返る教室。  目線が彼を容赦なく追う。  紬はなんだか悪い気がして、俯いた。  紬の席の後ろを通る瞬間、振り返り自分の椅子を手前に引こうとした。目に飛び込んできたのは、黒髪のマッシュヘアに、鮮やかな金髪メッシュ。 「……ごめん」  椅子を引いたとき、つい言葉が突いて出た。  掠れた情けない声だ。七見の目線は少し上を向いたまま、こちらを見向きもしない。  もちろん返事はない。  聞こえていなかったのかもしれない。  七見は、黒いリュックを降ろすと席に座った。
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