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「オイ、七見ー。久々じゃん」
すぐに声を掛けたのは、七見の一つ席を開けた窓際に座る井野森だ。確か、中学が一緒だと話していた記憶がある。
見下すような、威圧感のある口調だ。
七見は机に積まれた教科書をリュックへ手早く収納していく。
「……なにか用?」
去る気配のない井野森に痺れを切らしたのか、声だけで答える。
「はあ? オマエ、なに高校デビューしちゃってんの。マジ笑えんだけど。ママーと登校なんて、どんなマザコン?」
「高校生としては、デビューだね。初日だし」
気にしていない口ぶりで抑揚なく、淡々と答える。
「そんな態度、俺にしていいのかよ? お前の過去、バラしてやろうか? あぁ?」
「所詮、過去でしょ」
「……オマっ!!」
食らったしっぺい返しに、女子の失笑が聞こえた。タイミング良く、りっちゃんが教室に入ってきて、彼は不服そうに席についた。
りっちゃんは、七見を紹介しなかった。
それはつまり、彼もクラスに必要ないと判断されたのだ。彼女は常に明るく、生徒と仲良が良い。だがそれは目立つ人だけで紬とは目を合わそうともしない。
会話を交わした記憶と言えば、林間学校で一人きりの紬に、「もっと自主的に友達を作るとか、行動しなきゃだめよ」と、言われたときだけだ。どうやら、友達ができない紬がクラス内で浮いている存在だと、認識されているようだった。
自分は確かに浮いているのだから、文句を言える立場ではないかもしれない。それでも教師なら、寄り添ってくれてもいいのではないかと哀しい気持ちになる。
七見は髪型を除けば、暗い印象を受ける。パンツは腰ばきせず、ブレザーも一番上まで綴じていて姿勢も正しい。
だが、黒髪に束間のある金色のライン。
逆にそれが彼を目立たせていた。
りっちゃんが、教室から出て行くと、入れ替わるように一限目の数学が始まった。黒板を写すために視線を動かすと、七見の耳から黒い機械らしきものが見えた。長めのレングスで気づきにくいが、それがワイヤレスイヤホンだと分かる。
野口は神経質で口うるさい教師なので、知られるのではないかと、急に不安で胸がざわつく。
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