1.拾われたRadio

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 指がリズムを刻むように机を叩く。  七見はイヤホンをしたままで、黒板をノートに書き写している。真面目に授業を受けなよと、気になって仕方がない。    それに、もし気づかれてしまったら、またりっちゃんから呼び出されて、皆んなからバカにされかねない。  長めに切られた横髪を耳上にかぶせていても、チラチラとイヤホンが覗く。  授業の終盤、各々が問題を解く時間が終わると、野口が小テストを配り始めた。前列の紬達は、プリントを受け取らなければいけない。彼の左隣の浅井さんが受け取っている間も気づく様子がない。野口が七見の前で枚数を数え始める。意を決した紬は、消しゴムを七見の机に飛ばした。綺麗に机を転がり、顔が上がる。  彼は耳のあたりを2回、コンコンと叩き、澄ました顔でプリントを受け取り後ろに送った。  回し終えて、先ほど投げた消しゴムを手の上で転がすと、再び耳元を叩き、机上でリズムを踏み始める。  もう勝手にしたらいい。そう思い、プリントを目前にして気が付いた。消しゴムを一個しか持ってきていない……紬は軽くプリントを握りつぶした。    一限が終わり、購買で消しゴムを購入し教室に戻る。  席に着くと、井野森の高い笑い声が聞こえてきた。七見の隣の席に座る浅井さんと盛り上がりを見せている。  一方の紬は消しゴム一つ、返してと声を掛けることができない。    浅井さんの少し抜けた髪色に、映える笑顔を見つめて、羨ましいと思う。色素が薄い髪色は活発な印象を受ける。  自分があの見た目だったら、少しは世界が変わっただろうか。  そもそもが、誤りだったのだ。入学初日、ホームルームに遅刻寸前の教室に足を踏み入れると、既に隣同士や周辺で話す生徒たちがいた。  紬の後ろは結衣花で、彼女の隣が雪実だった。ホームルームが終わり、雪実に「おはよう」と、放った言葉を遮るように、結衣花が雪実に言った。「体育館で入学式みたいだよ、一緒にいこう」と。雪実は紬に目も向けず、結衣花と共に教室から消えていった。  雪美の陰る視線が、紬を避けたように感じられた。それ以来拒否されることが怖くて、声を掛けられない。もちろん、彼女から声を掛けられる気配もない。 「ねぇ、紬ちゃんと一緒の学校にいきたい」  彼女の声を思い出す。ギュッと胸が押し潰される。  今、どんな気持ちで、彼女はいるのだろう。    そのとき、目の前に消しゴムが置かれた。
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