001 闇夜の鍵師

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「傘を貸しましょうか」  振り向くと、いつもカウンターに座っている彼が、店のガラス戸から顔を出していた。  碧生が唖然としていると、彼は雨に打たれるのも構わずに、黒い傘を一本持って表に出てきた。いつも椅子に座っているから気がつかなかったが、彼は碧生よりも頭ひとつ以上背が高かった。 「どうぞ」  右手のすぐ前まで差し出された傘を、受け取らないわけにはいかなかった。 「ありがとうございます、お借りします」  碧生は早速バンドを解いた。傘を開こうとしたが、たわんでぎしぎし骨が鳴るばかりだった。しばらくの間使っていなかったものなのかもしれない。 「だめですか」  彼が腰を屈めて中棒に手を添えると、打ち上げ花火が弾けるようにぼんと傘が開いた。碧生は驚いて傘を投げ出しそうになってしまった。 「すみません」  失礼なことをしてしまったと、傘の持ち手をぎゅっと握りしめる。見上げると彼は、口元に左手を添えて笑っていた。 「行ってらっしゃい。気をつけて」
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