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雨はますます酷くなっていく。
(こうなったら、強行手段に出るしかない)
碧生は来た道をまたアパートへと折り返し、傘を貸してくれたあの店に戻った。
軒下で傘を畳んでいると、男が「お帰りなさい」とガラス戸を開けてくれた。
中に入るのは初めてだった。四畳半ほどの店内の手前棚には食料品、奥の棚には日用雑貨が並んでいるが、売り切れてしまった商品の仕入れをしていないのか、ところどころが空いたままになっている。
店内奥には扉がひとつあって、そこから先が住居になっていそうだ。そこに誰かがいるのか、磨りガラスの向こう側は灯りが点いている。
碧生は奥の棚にひとつだけ残されていた梱包用のテープを手に取って、カウンターに向かった。
「すみません、これをください。あと、もしあったらで結構なんですが、金槌を貸していただけないでしょうか」
「いったい何があったんです?」
男は目を瞬かせている。
「実は家の鍵を落としてしまったみたいで」
碧生がこれまでのいきさつを説明すると、彼は眉根を寄せた。
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