大学三年・秋

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大学三年・秋

「櫻井さん。文化祭、一緒に回りませんか?」 「ふえ?」  稲穂色(いなほいろ)の夕闇が差し込むゼミ室。  わたしはすっとんきょうな声を上げる。  向かい側の机でノートパソコンのキーを叩きながら、白戸くんが先を続けた。 「一昨年(おととし)は何も言わずに逃げられました。去年は『駄目です』って言われました。三度目の正直ならぬ、三年目の正直です」 「じゅ、熟考(じゅっこう)させていただきたく……」 「櫻井さんの熟考は年を越しそうなので。お断りさせていただきます」  パタンと、ノートパソコンを閉じ。  真正面からわたしを見つめ、白戸くんがにこやかに笑う。
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