お鳴り様

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お鳴り様

「いででで……」 水田の泥に下半身を埋めながらもがいているのはお鳴り様。 背丈は五歳ほどで、肌は赤黒く、ぱちくりとした目。 薄茶色でストレートのおかっぱ頭はあまりにも必死だったので、その愛くるしさに右は思わず吹いた。 左はその顔に、思い切りしっぽパンチを食らわした。 二人はぬかるみの上を慎重に渡り、お鳴り様の前にひざまづいた。 「遠路はるばるよくお越しくださいました。私どもは、狐の右近、左近と申しまして、この界隈の月神社が稲荷様の部下にございます。 お鳴り様が無事にご昇天されるまで、僭越ながらお仕え申しあげます」 「持ち回りなんで。前回は狛犬が当番だったから、今回はうちらがぶぉふ!」 右の口を左のしっぽが封じた。 近くのガレージからロープを拝借して、お鳴り様の腹にくくりつけた。 レスキュー隊さながら、引き上げることに成功した。 体についていた泥は、神社の裏の用水路に入って皆流した。 「さて、何でおらが落ちたか、この後どうすればいいのか、教えるから、どうか手伝いを頼む」 「御意」 二人は畏まった。狛犬たちは聞き耳をたてた。
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