6人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
お鳴り様
「いででで……」
水田の泥に下半身を埋めながらもがいているのはお鳴り様。
背丈は五歳ほどで、肌は赤黒く、ぱちくりとした目。
薄茶色でストレートのおかっぱ頭はあまりにも必死だったので、その愛くるしさに右は思わず吹いた。
左はその顔に、思い切りしっぽパンチを食らわした。
二人はぬかるみの上を慎重に渡り、お鳴り様の前にひざまづいた。
「遠路はるばるよくお越しくださいました。私どもは、狐の右近、左近と申しまして、この界隈の月神社が稲荷様の部下にございます。
お鳴り様が無事にご昇天されるまで、僭越ながらお仕え申しあげます」
「持ち回りなんで。前回は狛犬が当番だったから、今回はうちらがぶぉふ!」
右の口を左のしっぽが封じた。
近くのガレージからロープを拝借して、お鳴り様の腹にくくりつけた。
レスキュー隊さながら、引き上げることに成功した。
体についていた泥は、神社の裏の用水路に入って皆流した。
「さて、何でおらが落ちたか、この後どうすればいいのか、教えるから、どうか手伝いを頼む」
「御意」
二人は畏まった。狛犬たちは聞き耳をたてた。
最初のコメントを投稿しよう!